まえがき

逢妻女川(あいづまめがわ)のささやきを聞いたことがありますか。
空と川面の中間に霞たなびく春むらさきのタ暮れどき……
五月雨に濡れそぼつ若苗のもえぎ鮮やかに深みゆく日々……

黄金(こがね)の稲穂刈り終えし甘い匂いただよう日だまりのあぜ道……
朝日の眩しさと鈍色(にびいろ)の陰が小気味よい調和をみせる霜枯れの野辺……
この四季の向うに逢妻女川が見えませんか、もしそうならあなたはもうささやきを聞いたはず。
ずっと古(いにしへ)もちょっと昔も、そして今も、もちろん未来へ続く明日も、すべての息吹にむかって逢妻女川は語りかけているのですから。

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